1.「野口英世は3時間しか寝なかった」──その言葉をどう扱うか
娘さんと話すときに出てくる名前のひとつが、野口英世。
「一日3時間しか寝ずに研究していた」という有名なエピソードは、
努力の象徴としてよく語られます。
でも、私はこう思っています。
そのまま真似させたら危ない。
3時間睡眠は“根性物語”であって、現代の科学的にはアウトです。
実際、今の睡眠医学では、
小学生は1日9〜12時間の睡眠が推奨されています。
これは「寝過ぎの甘やかし」ではなく、
**脳と体が正常に発達するための“必要条件”**です。
だからこそ、娘さんにはこう伝えてあげたい。
「英世は3時間睡眠で戦っていたかもしれない。
でも今は、睡眠の大切さが科学的に分かってきている時代。
無駄な時間を削って、やるべきことを集中してやって、
寝るときはしっかり寝るほうが“賢い努力”なんだよ。」
このスタンスを、この記事でしっかりと言語化しておきます。
2.なぜ今、睡眠がここまで重要視されるのか
昔は「睡眠時間を削って頑張る」が美徳でした。
しかし、ここ20〜30年で、睡眠に関する研究は一気に進みました。
特に分かってきたのは、
充分な睡眠が、ほぼすべての“人間の能力”の土台になっているということ。
睡眠がやってくれていること
- 記憶の整理・定着(その日覚えたことを“長期保存”してくれる)
- 不要な情報の整理(いらないノイズを捨ててくれる)
- ホルモンバランスの調整(成長ホルモン・食欲のホルモンなど)
- 免疫のメンテナンス(病気への抵抗力アップ)
- 感情の整理(イライラ・不安のクールダウン)
特に子どもについては、
推奨時間より短い睡眠が続くと、
注意力・行動・学習・感情のコントロールに悪影響が出る
というエビデンスが、山ほど積み上がっています。
つまり、
「よく寝ている子のほうが、
起きている時間の“集中力”と“吸収力”が高い」
これが、現代のスタンダードな結論です。
3.小学生はどれくらい寝るべきか──科学の答え
アメリカの睡眠学会(AASM)や各国の公的機関は、
子どもの年齢ごとに、健康に生きるための睡眠時間の目安を出しています。
- 6〜12歳(小学生):1日 9〜12時間 の睡眠が推奨
この“9〜12時間”の中には、
- 夜の睡眠
- 必要なら短い昼寝
も含まれますが、
基本的には 夜にしっかりまとめて眠る ことが前提です。
そして大事なのは、
「このくらい寝ている子ほど、健康状態・学習・行動・感情面の状態が良い」
というデータが揃っている、ということ。
逆に、
いつも短眠で回している子ほど、以下のリスクが高まるとされています。
- 集中力が続かない
- イライラ・落ち込み・情緒不安定
- 肥満・糖尿病・高血圧リスク
- 学校生活でのケアレスミス増加
- うっかり事故・怪我の増加
「夜ふかしして頑張っている」ように見えても、
トータルのパフォーマンスは下がっている可能性が高いのです。
4.「短眠=努力家」という昭和メンタルから、そろそろ卒業しよう
野口英世に限らず、
- 「ナポレオンは3時間睡眠だった」
- 「◯◯の偉人は毎日◯時間しか寝なかった」
という話は、昔から大量にあります。
でも現代の目線で見ると、
それは「すごい根性の話」であって、
「健康な学び方・働き方のモデル」とは言い難い。
しかも、それが本当に毎日続いていたのかどうかも怪しい。
脚色された“伝説”である可能性も十分あります。
何より、
当時の平均寿命・医療水準・働き方
と
現代の社会構造
は、まったく違います。
昔は「命を削って何かを成し遂げる」物語が美談になりました。
でも今は、
- 長く健康に生きること
- 持続可能な働き方と学び方
- 人生100年時代を見据えた「走り方」
が求められる時代です。
だから、昭和型の「寝なければ偉い」メンタリティからは、
親の世代から意識的に卒業していく必要がある。
私はそう強く感じています。
5.「起きている時間の無駄」を削る、という発想へ
では、どうやって
「やるべきことはちゃんとやる。
でも、睡眠時間はきっちり確保する。」
を両立させるか。
答えはシンプルで、
削るのは“睡眠”ではなく、“起きている時間のダラダラ”
です。
子どもの日常に潜む「睡眠泥棒」
- なんとなくつけっぱなしのテレビ
- YouTubeやショート動画の「あと1本だけ」
- ダラダラと長引く入浴・就寝前のグズグズ
- 宿題を始めるまでの“腰が重い時間”
大人で言えば、
- スマホの無目的スクロール
- なんとなく開いたSNSで30分消えている
- 仕事の後の“なんとなく残業”
こういった「意識していない時間泥棒」を、
家庭全体で少しずつ減らしていくことが、
実は いちばん現実的な“睡眠改革” です。
6.「やることを終わらせて、しっかり寝る」ための夜の設計図
ここからは、もう少し実務的な話を。
① まず「理想の睡眠時間から逆算」する
たとえば、小学生なら 9〜11時間を目標にするとして、
- 朝6:00に起きるなら → 21:00までに就寝
- 朝5:30に起きるなら → 20:30〜21:00には就寝態勢
この「寝るべき時間」を先にカレンダーに固定しておきます。
「このラインは、うちの家族では“聖域”にしよう。」
と決めてしまうイメージです。
② そこから逆算して、「夜のルーティン」を組む
例として:
- 18:00〜19:00 夕食
- 19:00〜19:30 お風呂
- 19:30〜20:15 宿題・今日の復習
- 20:15〜20:30 明日の準備・音読など軽めの勉強
- 20:30〜 読書タイム(スクリーンなし)
- 21:00 就寝
ここで大事なのは、
- 21時就寝が“絶対”で、他を調整するという発想
- 夜のスクリーンタイム(テレビ・タブレット・スマホ)は、
できれば寝る1時間前には切り上げること
です。
③ 「間に合わなかった勉強」は、思い切って翌朝 or 週末に回す
どうしても間に合わない日があります。
そこでやりがちなのが、
「今日は特別。30分だけ遅く寝よう。」
という妥協。
もちろん、たまになら構いません。
ただ、それが常態化すると、
- 「結局、睡眠を削ればいい」という学び
- 「自分のキャパ以上に予定を詰め込む癖」
がついてしまいます。
むしろ、
「今日はここまで。明日・週末に回そう。」
「時間内に終わらないなら、そもそもの計画を見直そう。」
という “計画力”と“引き際” を身につけるほうが、
長い目で見ればはるかに価値が高いです。
7.睡眠と学力の関係──「徹夜で詰め込む」と「よく寝て覚える」
睡眠研究では、
よく寝ている子ほど、
注意力・記憶・感情の安定・成績が良い
というデータが数多く報告されています。
睡眠中、とくに深いノンレム睡眠の時間帯に、
その日インプットした情報が脳内で再整理され、
- 必要な情報:残す
- 不要な情報:捨てる
という作業が行われるとされています。
つまり、
- 寝ないで詰め込む:
→ “メモリ”に突っ込むだけ突っ込んで、セーブしないで電源を切るようなもの - しっかり寝る:
→ その日やったことを“保存→圧縮→整理整頓”して、
次の日に使える状態にしてくれる
というイメージです。
だからこそ、
大量に勉強しても寝不足続きだと、せっかくの努力が定着しにくい。
逆に、
勉強量はそこそこでも、 睡眠をしっかり取っている子は、
学んだことが長持ちしやすい。
「睡眠は、最強の“復習時間”」
と言ってもいいくらいです。
8.親として守りたい「睡眠のレッドライン」
ここまでの話を踏まえて、
親としては、こんなラインを持っておきたいところです。
- 小学生期は、原則として21時台には寝かせる
- 「テスト前だから」「塾があるから」といっても、
慢性的に睡眠時間が8時間を切るようなら、
そもそも生活設計を見直す - 塾や習い事は「睡眠時間を確保できるか」を基準に選ぶ
- 子どもに 「寝るのも、将来の夢のための“ちゃんとした努力”なんだよ」
と繰り返し伝える
野口英世の話をするなら、
「英世の時代は、睡眠の大切さがまだ分かっていなかった。
だから、命を削るような努力をしてしまった人も多い。
でも今は、睡眠が大事だと分かっている時代。
だから私たちは、“ちゃんと寝て、それでも誰より頑張る”やり方を選ぼうね。」
と、
歴史と科学をつなげて語ってあげるとしっくりきます。
9.「よく眠る子は、遠くまで走れる」
最後に、娘さんに届けたいメッセージを
一つのフレーズにまとめるなら、こうです。
「よく眠る子が、いちばん遠くまで走れる。」
- 睡眠を削って一時的に伸びることはあるかもしれない
- でも、心と体と脳をすり減らしてしまったら、
受験の先の長い人生を走り切れない
私たちが本当に目指しているのは、
「小学生のテストで勝つこと」ではなく、
- 自分の夢に向かって、
- 長い年月をかけて学び続け、
- 人の役に立ち続けられる大人になること
のはずです。
そのための 一番の“燃料タンク”が睡眠です。
起きている時間を濃くするために、
寝るときは誰よりも堂々と、気持ちよく眠る。
それは決して「サボり」ではなく、
将来の自分への最高の投資だと、胸を張って言えるように。
そんな価値観を、
親子で共有していけたらいいなと思います。

