1.防災は「非常時のテクニック」ではなく、「ふだんの生き方」の問題
防災というと、多くの人はこう考えます。
「非常食」「懐中電灯」「防災リュック」「避難経路」。
もちろん、それらも大事です。ですが――本質はそこではありません。
本当に問われているのは、
“自分たちの暮らしは、どれくらい外部に依存しているか?”
という一点です。
水道が止まったら?
電気が途絶えたら?
ガソリンスタンドが空になったら?
物流が止まったら?
その瞬間に生活が“ゼロ”になる構造なら、
どれだけ防災グッズを詰め込んでも、
「少し長く耐えられる」だけで、根本は変わりません。
防災とは、
暮らしの土台を「一点依存」から「複数の支え」へと組み替える営みです。
そう考えたとき、二拠点生活は、ものすごく防災的な生き方になります。
2.一拠点にすべてを乗せている暮らしの、静かな“危うさ”
想像してみてください。
ある朝、大きな地震が起きる。
あなたが住む地域のライフラインが一斉に止まりました。
- 自宅 → 一部損壊、ライフラインなし
- 職場 → 交通網が止まり通勤不能
- 子どもの学校 → しばらく休校
- スーパー → 長蛇の列、すぐに品薄
- 病院 → 怪我人で溢れ、軽症では診てもらえない
「住む家」「仕事」「教育」「医療」「買い物」。
すべてが、同じエリアに乗っていたことに、そのとき初めて気付きます。
便利さと引き換えに、暮らしの“命綱”を一本にまとめていた。
これが、一拠点生活の本質的なリスクです。
普段は見えないけれど、有事の際に一気に露出する“構造的な弱さ”。
3.二拠点生活は、「暮らしの分散投資」である
では、二拠点生活は何を変えるのか。
単に「家が二軒ある」という話ではありません。
生活の基盤そのものを、複数の場所に分散しているということです。
- 片方は都市部:インフラと情報とアクセスに強い拠点
- 片方は自然豊かな高原や地方:自立度が高く、人の密度が低い拠点
この2つを持っていると、災害リスクの受け方がガラッと変わります。
| 要素 | 都市拠点 | 高原・地方拠点 |
|---|---|---|
| 情報・医療 | 強い | 弱くなりがち |
| 物流・買い物 | 強い | 季節や天候に左右される |
| 土砂・雪・津波 | 場所によって差 | それぞれ別の形でリスク |
| 自然資源(水・薪など) | 乏しい | 豊かで自立しやすい |
地形・標高・気候・人口密度が違う二箇所に暮らしの拠点を置くことで、
どちらか一方が機能不全になっても、もう一方が「命綱」になり得る。
金融の世界で言えば、
“オールイン”ではなく“ポートフォリオ”で暮らすということ。
「どこか一つにすべてを賭ける」のではなく、
「複数の場所に生活を分散しておく」――
これが、二拠点生活に内蔵された防災性です。
4.二拠点だからこそできる、防災戦略の“役割分担”
二拠点生活の防災力を最大化するためには、
ただ家を二つ持つだけでは足りません。
それぞれの拠点に“役割”を与えることが大切です。
● 都市拠点:情報とアクセスに強い“司令塔”
都市の家は、防災的にはこんな役割を持ちます。
- 最新情報が入りやすい
- 医療機関や大規模な店にアクセスしやすい
- 交通網が復旧しやすい
- 仕事・学校との連絡拠点になりやすい
つまり、都市拠点は
「社会とのつながりを確保するための防災拠点」
として機能します。
ここでは、
・書類・身分証・データのバックアップ
・金融口座やオンラインサービスのアクセス環境
・情報収集手段(テレビ・ネット・ラジオ)
をしっかり整えておくことが重要です。
● 自然拠点:インフラなしでも生きられる“生命線”
一方、別荘や高原拠点は、
インフラの途絶に強い拠点として設計できます。
例えば――
- 薪ストーブ+薪 → 電気がなくても暖が取れる
- 雨水タンク+浄水器 → 断水しても“水を作れる”
- 小型ソーラーパネル+バッテリー → 最低限の電気を自給
- ガスに頼りすぎない調理設備(薪・炭・カセットコンロなど)
- 食料のストックと、簡易な家庭菜園
ここでは、
「電気・水・ガスが止まっても生き延びるための防災拠点」
を目指します。
2つの拠点がまったく同じ備えをする必要はありません。
**“都市=情報とアクセス”“自然=自立とサバイバル”**と役割を分けると、
全体として非常に強い防災構造になります。
5.ライフラインを“多重化”するという発想
防災を考えるとき、大切なのは「代替手段を持つこと」です。
二拠点生活は、そのままライフラインの多重化につながります。
● 水
- 都市拠点 → ペットボトル備蓄、給水所へのアクセス
- 自然拠点 → 雨水タンク・川・井戸+浄水器
「蛇口から出る水しか知らない」暮らしから、
**“自分たちで水を用意できる”**暮らしへ。
● 熱(暖房・調理)
- 都市拠点 → 電気・ガス・灯油ストーブ
- 自然拠点 → 薪ストーブ・薪・炭・焚き火台
「スイッチ一つ」の暖房から、
“自分の手で火を起こす”という選択肢を持つ暮らしへ。
● 電気
- 都市拠点 → 商用電力+モバイルバッテリー
- 自然拠点 → ソーラーパネル+蓄電池+発電機(必要に応じて)
“電気を使うだけの生活”から“電気を作る生活”へ。
● 通信
- 都市拠点 → 光回線・携帯網
- 自然拠点 → 携帯+無線機・必要なら衛星通信端末
どちらかの拠点が孤立しても、もう片方が連絡窓口になれるようにしておく。
これだけで、家族の安心度は大きく変わります。
6.「何かあったら、どちらに集まるか」を家族で決めておく
二拠点生活の防災で、非常に大切なのが**「合流の設計」**です。
- 震災が起きたら、まずどちらの拠点を“主戦場”にするのか
- 連絡が途絶えた場合、最終的にはどちらに集まるのか
- 誰がどのルートで、どの手段で移動するのか
これを、あらかじめ「家族のルール」として決めておくだけで、
災害時の行動が迷いなく動き出します。
たとえば――
「大規模地震で都市部が混乱したら、数日以内に自然拠点へ移動する」
「豪雪で山側が孤立しそうなときは、早めに都市拠点へ下りる」
こうした「条件付きのシナリオ」を、家族の中で共有しておく。
すると、ニュースを見たときの判断スピードと迷いがまったく違ってきます。
7.別荘を“防災装置”としてデザインする
別荘というと、「休暇でのんびりする場所」というイメージが強いかもしれません。
しかし防災という視点から見れば、別荘はそのまま巨大な防災ツールです。
● 置いておくと心強いもの(考え方付き)
- 薪ストーブ・薪棚
- 暖房・調理・乾燥・照明(炎)という多機能ツール。
- 「電気やガスに頼らない熱源」を持つことは、寒冷地では生命線になります。
- 雨水タンク+簡易浄水器
- 水道が止まっても、雨が降る限り“水を作れる”。
- 「水は買うもの」から「水は確保するもの」へ意識が変わります。
- ソーラーパネル+ポータブル電源
- スマホ・ラジオ・照明・小型家電を動かせるだけで、情報と安心感が段違い。
- 紙の地図・コンパス・無線機
- スマホが圏外でも、“自分のいる場所”と“行ける場所”が分かる。
- 子どもと一緒に地図を眺めながら、防災学習にもなります。
- 紙の本・図鑑・トランプ・ボードゲーム
- 災害時、実は一番必要なのは“退屈を埋めるもの”と“心の支え”。
- 電気がなくても、親子の時間を豊かにしてくれる“心の備蓄”です。
8.子どもと一緒に育てる「防災感覚」という財産
二拠点生活をしていると、子どもは自然とこうした感覚を身につけていきます。
- 「水は蛇口から出るもの」ではなく、「雨や川から手に入れるもの」
- 「暖房はスイッチ」ではなく、「薪を割って火をつけるもの」
- 「明かりは照明器具」ではなく、「焚き火やランタン」もある
- 「困ったら誰かが助けてくれる」ではなく、「自分で工夫して生き抜く」
これは、テストの点数には表れません。
しかし、**人生のどこかで必ず子どもを守る“生きる力”**になります。
ときどき「停電ごっこ」「断水ごっこ」をしてみるのも良いかもしれません。
電気を消してロウソクを灯し、薪ストーブでお湯を沸かし、
紙の本を読んで過ごす夜――それは立派な“防災訓練”であり、
同時に忘れられない家族の思い出にもなります。
9.心の防災――“帰れる場所が二つある”という安心
災害で一番ダメージを受けるのは、実は「心」です。
先行きの見えない不安、情報の洪水、生活の崩壊感、喪失感。
そんなとき、
「ここがダメでも、私にはもう一つの拠点がある」
と思えることは、何よりの精神安定剤になります。
これは、単に物理的な避難場所が二つあるという意味ではありません。
「この先も、家族と共に安心して暮らせる未来のイメージが二種類ある」
ということです。
未来の選択肢が一つしかないと、人は簡単に折れてしまう。
二つあるだけで、心の折れにくさ――“レジリエンス”は格段に上がります。
10.仕事と防災:二拠点は“事業継続計画(BCP)”でもある
もし自分が一人会社の経営者であったり、
リモートワーク中心の働き方をしているなら――
二拠点生活はそのまま**ビジネスのBCP(事業継続計画)**にもなります。
- 都市側の拠点で通信障害が起きたら、高原拠点の回線を使う
- 自然拠点が大雪で出られなくなっても、都市拠点にサテライトオフィスがある
- パソコンや重要データのバックアップを両拠点に分散させておく
“どちらか一方がダウンしても、もう一方で稼働できる”という状態は、
会社にとっても家族にとっても、計り知れない安心材料です。
11.結論:二拠点生活は「豊かさ」+「生存戦略」
最後に、もう一度だけ言葉をまとめます。
二拠点生活とは、
ただ風景を変えて暮らすことではない。暮らしの土台を分散し、
命の支えを二重にするという
きわめて合理的で、しなやかな生存戦略である。
災害は「もし」ではなく、「いつか」の問題です。
そのとき、
「ここが駄目になったら終わり」という暮らしと、
「どちらかが駄目になっても、もう一方がある」という暮らしでは、
不安の質も、心の強さも、まったく違ってきます。
暮らす場所が二つあるということは、
守る命の支えが二つあるということ。
二拠点生活の防災意識とは、
その言葉を、ただのスローガンではなく
具体的な生活の形として育てていく営みなのだと思います。
そしてそれは、
家族の人生を静かに、しかし確実に守る
“見えない盾”になっていきます。

